紫陽花が泣く頃に




沈んでいる気持ちに拍車をかけるように、放課後になると雨脚はさらに強くなっていた。そして俺は昇降口でまた柴田に会ってしまった。

柴田は泥落としマットが敷かれている屋根の下にいて、ぼーっと雨ざらしの外を見ていた。目が合って〝なんでまたいるの〟って顔をされたけれど、それはこっちのセリフだ。互いにピリついた空気を放ちながら、先に傘を開いたのは柴田のほうだった。

それはもちろん、昨日と同じ薄ピンク色の傘。

――『千紘くんって雨嫌いなの? 私はけっこう好きだよ。だって、ほら。雨が降らないとお気に入りの傘がさせないし』

彼女はとくに花の形をしてる留め具が好きで、可愛いでしょって、嬉しそうに自慢してた。

その留め具付きの傘が、俺の瞳に映っている。色だけじゃなくて、柴田は彼女と同じ傘を使っていたのだ。

「……ま、待って」

驚いた拍子に、思わず柴田の腕を掴んでいた。

「なに?」

柴田も動揺していた。引き止められるなんて思ってなかったんだろう。俺も同じだ。華奢な腕から、そっと手を離した。それと同時に、聞かずにはいられないことが喉まで上がってきていた。

「その傘って……美憂(みゆ)のじゃない?」

ザァーという雨音が大きくなる。飄々としてる柴田の瞳が、わずかに泳いだ気がした。

「誰それ、知らない」

歯切れの悪い返事をしたあと、柴田は彼女と同じ傘をさして、どしゃ降りの雨の中に消えていった。