紫陽花が泣く頃に



それから昼休みになり食堂に向かった。学食も格安でうまいけれど、俺はいつも高橋ベーカリーのおばちゃんが売りに来てるパンを買う。

「カレーパンひとつください」

「ごめんね、カレーパン売り切れちゃったのよ」

「じゃあ、焼きそばパン」

「それもさっき買っていった子で最後だわ」

「えー……」

「菓子パンならいっぱいあるよ。このイチゴ練乳パンはどう?」

育ち盛りの十六歳男子の昼飯にイチゴ練乳パンだけはきつい。

「なら、それと塩パン二つください」

「はーい、180円ね」

しわしわのおばちゃんの手に小銭を渡した。

高橋ベーカリーはこの町にある唯一のパン屋だ。うちのばあちゃんと高橋ベーカリーのおばちゃんは仲がよかった。

売れ残ったパンをうちに持ってきてくれたり、俺がそのお礼に庭で取れた柿を届けたりしたこともあったけれど、おそらく高橋ベーカリーのおばちゃんは今の俺のことをその時の孫とは認識していない。

遅れてやってきた成長期のように、高校に入って身長が四センチも伸びたし、ばあちゃんが施設に入居して交流がない以上、自分の口から孫ですと挨拶する理由はない。

俺の横の繋がりは全部ばあちゃんを介して成り立ってた。人見知りで口下手だから、誰かが声をかけてくれたり、誰かが誘ってくれないと動けない。

振り返れば〝彼女〟の時も、彼女から俺に歩み寄ってきてくれた。

――『ねえ、どうしていつもひとりでいるの?』

学校で一番可愛いと言われていた彼女が声をかけてくれた衝撃は今でも覚えている。

そうやって誰かがなにかを変えてくれるのを今も待っているのかもしれない。

……俺って、自分ひとりじゃなんにもできないのかよ。