紫陽花が泣く頃に



「言っときますけど私は悪くないですよ。菅野のほうからぶつかってきたくせに謝らないから、注意のつもりで投げただけです」

痛がっている菅野とは真逆に、柴田はあっけらかんとした態度を貫いていた。

……柴田って、こんな声してたんだ。

意外にも声は少し高くて、勝ち気な性格には不釣り合いなほど女の子らしかった。

「注意のつもりでもやり方があるだろ?」

「他に方法が思い付きませんでした」

「はあ……。とりあえず菅野は保健室。柴田はコートの外に出てなさい」

先生は腰に手を当てて、ため息をついている。

友達の力を借りて立ち上がった菅野の右手が血で染まっていた。

「柴田、覚えとけよ」

怒りをむき出しにしてる菅野を横目に、やっぱり柴田は表情ひとつ崩すことはなかった。

菅野に対して、こんなことができるのは柴田くらいだ。こう見えて菅野は素行が悪い男子で通っていて、どちらかといえば怖がられているような存在だ。

誰も聞いてないのに中学時代にしてきた悪さを武勇伝のように語っては、自分の立場は上だということを鼻にかけてくる。

こんな田舎町で粋がったところでたかが知れてるけれど、菅野を怒らせないほうがいいというのは、暗黙のルールのように周知されてることでもあった。

それなのに柴田は、平気で菅野の顔面にボールを投げた。

その気の強さに引いてしまった俺は、ますます柴田とは関わりたくないと思った。