「小暮くんは美憂から病気のことって、どこまで聞いてた?」
「先天性の心臓病だってことを俺も最近教えてもらったばかりで……」
「あの子、病気のことに関しては人に言いたがらないからね。美憂はね、心臓の手術を七歳くらいの時に受けられる予定だったの」
「そう、だったんですか?」
「でも手術したとしても、美憂の身体が耐えられるかどうかわからないって言われたわ。成功の確率は半分以下だって……」
律子さんの声が小さく萎んでいく。
「だから私は手術を断ってしまったの。この機会を逃したら手術そのものがもうできないと言われていたのに……その半分以下の成功率に美憂の命を預けることができなかったのよ」
「………」
「今でもあの時に手術をしていたら、もしかしたら成功していたんじゃないかって考えてしまうの。そんなことを思ってもキリがないことはわかってるんだけど、美憂の病気が治るチャンスを私が奪ってしまったんじゃないかって……」
「……でも、失敗してたかもしれない。そしたら今までの美憂はいなかったかもしれないです」
律子さんにこんなことを言い返すなんて生意気だと思う。だけどもしも同じ立場だったら、俺も半分以下の成功率で美憂の命を預けることはできない。
「俺は……律子さんの選択は間違っていなかったと思います。七歳からの美憂がいてくれたから、俺は彼女に会うことができたし、人を好きになる気持ちも知ることができた。だから自分を責めないでください」
なにが正解なのかは誰にもわからない。でも美憂はきっと、正解なんて求めていない。彼女は病気のことを誰かのせいだと思う子じゃないからこそ、俺たちも今の美憂を受け入れるべきだ。
「そうね。ありがとう」
律子さんは瞳に溜まった涙を指先で拭った。