3人で駐車場に行くと、
楽しそうに汗をかきながらチャンバラごっこに精を出す龍一と前田が、マサに見守られて楽しげに遊んでいた。

「あの…あちらの男性は?」
香世は不思議に思い正臣に聞く。

「あれは、うちの運転手の前田だ。
子供好きな奴だから気にせず今後も使ってやってくれ。」
正臣はそう言って龍一の側に寄って行く。

「龍一君、なかなか筋が良いぞ。
構え方にもいろいろあるからまた教えよう。」

「はい。とっても楽しみです。」

龍一は香世達が来たのに気付き元気に大きく手を振る。

香世もにこやかに微笑み手を振り返す。

3人は二階堂の車に乗り込む。
女中のマサは父を1人にする訳にはいかないと
樋口家へ帰る。
前田はそんなマサを送る為、正臣に一礼して車に乗り込む。

「前田、ご苦労だった。後はよろしく頼む。」
部下を労う正臣をそっと見つめて香世は思う。

目覚めてから毎日、
正臣は仕事帰りに病室に寄ってはマッサージをしてくれた。

さすがに足は恥ずかしくて拒んでしまったが…
おかげで指の強張りは直ぐに取れ
リハビリがスムーズに進み退院も予定より早くなった。

毎日会う中で、
不思議と彼がいない時間は長く、早く夕方にならないかと思うようになっていった。

そのくせ彼と過ごす時間はあっという間に通り過ぎ、帰った後からまた会いたいと思うような気持ちになった。

とどのつまり、正臣が特別で大切な人なのだと実感したのだ。

これから実家に帰ると、
正臣とはなかなか会えなくなるのだろうか…香世は人知れず寂しい気持ちになる。