沢村会長がいないとどうしてこう静かなんだ
 おかげで仕事の進み具合が順調だった

 「さて、コピーしてくるか」
 書類をまとめ、立上がると扉がものすごい勢いで開けられた

 「絶対許さない!!あの女!」


 「出た・・」
 通常は『来た・・』になるはずだが、出たと言ったほうが表的には間違いないだろう

 沢村会長の妹双葉は、どうやら怒りが頂点に達しているらしい

 オレの事も気付かないらしく、頭をかきむしり、ソファを蹴飛ばした

 いつものしおらしさが微塵も感じられない。これが本来の彼女の姿なんだろうな

 「あのさその元気、他の事に向けたらどうだ?」

 
 「こっ、皇紀先輩!」
 ようやくオレに気付いたらしく、声が裏返っている。そして急いで自分の容姿を整え始めた

 もう十分、正体を見たから取り繕っても今更遅いって・・・

 それにしても、派手にやったな
 顔の頬から顎にかけて2ヶ所、両膝と脛4ヶ所、打撲の痣を付けている
 本人がこれほど酷いのだから、相手もただでは済んでいないだろうな
 性格上、倍にして返しているに違いない


 「皇紀先輩、あまり見ないで下さい」

 「いや、すごい痣だなぁと思って、冷やした方がいいだろ?」

 それにしても、妹を迎えにいったはずの会長の姿がない


 「会長は?会わなかったのか?」

 「あの男、あの女に寝返ったの!思い出しただけでもイライラする」

 「は?」

 「皇紀先輩なら、妹をこんな目に遭わせた女の肩を普通持ちますか?」
 
 もし、晶の白い肌に痣を付けた相手が女だろうが、オレだったら許さない

 「普通は持たないだろうな」
 傷の具合によっては、極端な話、殺すかもしれない

 「あの女、オニイチャンの好みのツボをついているのよ。小さくて、大きな瞳でふわふわの茶髪の容姿が、昔飼っていたハムスターの『もも』にそっくりだから」
 
 「はぁ・・」
 あの会長がハムスターを飼っていた事にも驚くが、ハムスターに似た女っていったい・・・

 「それで、会長はその女と一緒な訳だ」
  
 「そうです」
 なぜか、こいつが気の毒になってきた

 「そこに座れよ」
 ソファに指差し、彼女を座らせる

 「手当てしてやる」

 昨夜も晶を手当てしたなと考えつつ、目の前の相手の手当てを始めた