私も最近まで、周りの人が皇兄をどういう風に見ているのか、気にした事がなかった

 その人達は、ちゃんと皇兄の魅力に気付いてたんだよね

 一番近くにいたはずの私が、気付く前に

 「皇兄ってさ、背が高くて、顔立ちも綺麗で、本当にカッコいいよね」

 どうして、気付かなかったんだろう?

 「お前なぁ、そんな事あまり、人前で言うなよな」

 な・・ぜ?私の素直な気持ちなのに

 「どうして?だって、クラスメイトのほとんどが皇兄に憧れてるんだよ。みんな皇兄の事好きって言ってる」

 『好き』 
 たった2文字の言葉を、簡単にクラスメイトは口にする

 でも、私にはとても重すぎて、口に出すのが恐い

 だけど・・聞いてみたい
 五十嵐先輩が言っていた、皇兄の片思いの女(ひと)の事

 「皇・・皇兄は・・好きな人・・いるの?」

 聞くのは・・恐い、恐いけど、どんな人が皇兄に愛されるのか、聞いてみたい

 「なんで?また、誰かから聞いて来いって言われたのか?」

 私の質問に、皇兄はため息をついた

 この顔、困ったように瞬きする表情。中学の時にこの質問をすると、皇兄は決まってこの表情になった

 「うううん。五十嵐先輩が言っていたの。皇兄には、片思いの人がいるって」

 「あいつの言う事は、真に受けるな。人の心をかき乱して、喜ぶ奴なんだ。オレもどれだけあいつに・・」

 あぁ、だめだ・・
 『好き』と言う言葉と、『片思い』と言う言葉を口にしたら、涙が出てくる
 
 「どうした晶?何処か痛いのか?」

 違うの皇兄

 「うううん。片思いって辛いと思って」

 一方的な片思い。口にすることも許されない恋
 
 私は皇兄の背中を抱きしめ直した
 
 聞いて、皇兄

 「皇兄・・私ね。つい最近まで、自分には白馬の王子様が現れるって思ってたの。その人が運命の人なんだって・・」

 夢みたいな、おとぎ話みたいな事を、本気で信じてた

 「でも・・現実は違ってた。現実はそんなに甘くなくて・・」

 こんなにも・・こんなに胸が苦しいなんて

 「人を好きになるのって、こんなに辛いんだね」
 
 好き・・好きだよ。皇兄

 「晶・・会長はお前の事をちゃんとわかっている人だ。だから不安になる事はない」

 泣きじゃくる私の背中を、皇兄は優しく叩いた