「あんま、走ったら転ぶでー」

 会長は、晶の後ろ姿に声をかけると、オレの質問を考えていた

 「そや、思い出した。ももとは生徒指導室で会うたんや。ほら、双葉がケンカしたとかで呼び出された時があったやろ?あの双葉とケンカするってどんな女かと思ったら、ももやったんや」

 「へぇ」

 晶は、オレには顔の痣はバレーボールで顔面レシーブしたと言っていた

 あの、嘘つき

 「ケンカの原因は?」

 「さぁ、双葉はまったく分からん言うし、最初に仕掛けたんはももらしいけど。ただ、双葉に『嘘つくのが悪い』って怒ったみたいやで」

 晶は怒っても、殴り合いのケンカまで起こすという事は今までにない

 双葉が・・ついたという嘘によっぽどの怒りを持ったのか?

 「会長はそこで一目ぼれしたんですか」

 「いや、最初はあのふわふわの茶髪姿がハムスターの『もも』に似てるなお思てな。からかい半分やったんやけど・・・」

 会長はオレの顔を見た後、どんぐり飴の屋台でしゃがみ込んでいる晶を見た

 「俺、ももはこーちゃんの事が好きやないかと思っとるんや」

 「え?」
 意外な会長の言葉に、俺は言葉が詰まる
 晶がオレを?それは・・たぶんありえない

 「好きやないと、出来へんやろ。画像を消す為に、自分の大事なものと引き換えにするやなんて」

 画像・・画像って・・!

 「こーちゃんのキスシーンの画像を消してほしいとあの子、公園でオレに頭下げたんや」

 あのキスシーンの画像を晶が見ていた!!
 画像の為に会長に頭を下げた・・だと?

 でも、それは・・オレの事が好きと言うのではなく、オレがあいつの兄だから

 「会長・・それは・・あいつはオレの」
 晶は優しいから、兄のオレの為に頭を下げてくれただけで・・

 「好きやなかったら、自分の初キスを画像なんかの為に捧げようとはせぇへんやろ」

 なんだと!?
 何て言った!?

 「会長、晶に・・いや、ももさんにいったい何を言ったんですか?」

いったい晶に何をさせようとしたんだ?

「あん時は俺もどうかしていたんやと思う。ももがあまりにも真剣だから、画像を消す代わりに、あの子が出来ない条件を出したんや。ももから俺にキスしてと」

晶・・お前・・・なんて事を

今すぐ殺したい
会長ではなく、自分自身を・・
晶にそんな選択肢をさせた自分が許せなかった

「会長、それで晶は・・」

 「オニイチャン!リンゴ飴買ってー!細かいお金持って来てないの!」

 双葉の声が震えるオレの言葉をかき消した

この続きは、会長からでなく晶から聞かなくてはならない

 「なんや、しゃぁないなあいつ。こーちゃん、ももが何処にもいかんように見とってや」

 会長は下駄を鳴らしながら、双葉の方へと歩いて行った