「はー。これで大体終わったな」
 椅子の背もたれに大きく寄りかかると、軽く背伸びをした
 
 あとは明日、少しまとめて、コピーをすれば終了

 「皇紀先輩、終わったんですか?」

 「まぁな」
 沢村双葉が持ってきてくれた、コーヒーを一口飲んだ

 「よかったですね」
 彼女もコーヒーを一口飲むと、安堵の息をもらした

 「あんたのおかげだよ」
 正直、彼女がここまで手伝ってくれるとは考えていなかった
 会長よりよっぽど、働いてくれた

 晶とは正反対の黒髪を撫でると
 「ありがとな」と呟いた

 「先輩、あんたじゃなくて、いつになったら双葉って呼んでくれるんですか?」
 
 「・・・」
 いつか、その内、たぶん・・無言で笑って誤魔化す

 「じゃぁ、約束は・・」
 
 「約束?」

 「予算の件を手伝ったら、キスしてくれる約束。だめ・・ですか?」

 キス・・ね
 沢村双葉の唇は薄ピンク色の薄い唇の晶とは正反対
 弾力性のある、少し厚めの、赤みかかった唇
 
 何、観察してるんだろうね。オレは

 「約束なんかで、キスしてうれしいの?感情なんて入ってないし、きっと後悔する」

 「後悔するか、しないかは自分で決めます。だから、キスして下さい」

 「・・・考えておく。ところで、あんたの兄さんは?」

 また・・会長の姿がない

 「それなら、明日で予算の件が片付くって教えたら、喜んでももに会いに行きましたよ。これが片付いたら、デートするらしいから」

 成る程・・会長なりに気を使っていたわけだ

 「ほら、噂をすれば帰ってきた・・」

 彼女の言葉と同時に、鼻歌を歌いながら会長が帰ってきた

 「どや?だいたいまとまったか?こーちゃん」

 「ご機嫌ですね。会長」

 「分かるか?」

 分からないわけないだろう。こんなに、ニコニコ笑って子供のように目をキラキラさせているのだから

 「あー早う、日曜にならへんかな。ももの浴衣姿かわええやろーなー」

 「浴衣?」

 「せや、今度の日曜、近くの神社で祭りがあるんや。ももと一緒に行く約束したさかい。今度こそ誰にも邪魔されず、チュウするんや」

 チュウ・・て、はい。はい。キスの事ね

 まったく、この兄妹は発想が同じ事で

 神社の祭りねぇ、久しく行ってないが、そういう時期なんだな