あれは、いったいなんだったんだろう・・?

 「桜場、誰なのあの人?知り合いなんだよね」

 「知らねーよ。あんな奴」

 明らかに知ってるっていう顔だなぁ
 仲良くなさそうだけど

 「季節の変わり目に、あーゆー軽い奴が出て来るんだよ。あんま、気にするなよな」

 「う・・ん」

 結局、私の質問には答えてくれなかったなぁ
 私の髪のこと、どうやって確認したのか


 「むかつくけど、助かったぜ」
 違反を消された生徒手帳を見ながら、桜場はつぶやいた

 「あのさ、桜場」

 皇兄が・・皇兄になんだよね

 「何だよ」

 「お礼言わなかったね」

 「はぁ?あいつにか?何で言わなきゃなんねーんだよ。あいつらが信じないのが悪いんだろ。それに誤解を解くんなら、あの場でやってくれればよかったんだ」

 「ん。そうだね」

 たぶん、桜場も分かってる

 「もっと早くそうしてくれていたら・・お前も髪を切らずに済んだのに」
 桜場は私の髪をそっとつまんだ

 「いや、俺がもっとしっかりしていればよかったのにな」

 桜場が責任を感じる事はないの
 私が髪を切ったのはね。喉の奥まで出てきてゴクンと飲み込んだ

 「桜場のせいじゃないよ。私の方こそしっかりしていたら」

 「ほんっとに、まさにそれに尽きるよな。お前の天然に振り回されぱなっし。参るよ・・でも、何か困った事があったら言えよ。出来る範囲で助けるから、そう宣言したしな」

 「宣言?」

 「いや、お前には関係ない。俺、そろそろ部活に行くわ」

 「う・・うん?」

 かけていく背中を見送りながら、桜場にもお礼を言わなかった事に気付いた

 結局私って・・ダメな子なんだなぁと自覚

 「家に帰ろうかな」

 狩野先輩のピアノも聴ける気分ではないし、もしかして・・もしかしてなんだけど、早く帰ってたら皇兄に会えるかもしれない

 今日から、家に帰ってこないと言われたけど、着替えとか取りにくるかもしれないし、もう一度会って、『ごめんなさい』と言いたい

 『ありがとう』とも


 そして、家に帰って来てくれるのをお願いしてみよう