皇兄の顔(寝顔)に見とれて、5分は過ぎたと思う

 自分の心臓に、身体に問いただすが、症状は何も現れていなかった

 「ほぅ・・」
 解かり切っていた事だけど、なぜか安堵感のため息が漏れた

 それにしても、さっきから気になっているのが、皇兄の右掌

 しっかり、何かを握っている様子

 キラキラ光っているから、金属製のものだと思うんだけど・・

 なんだろう?すごく大事そうな物に見える

 ツン、ツン

 人差し指で、皇兄の右指の間をつついてみた
 すると、くすぐったく感じたのか指の力が緩まって、スルッと金属の塊りが掌から枕に落ちていく

 「ぁ・・」

 かろうじて、落ちる前にキャッチに成功

 あれ?でも、この感触・重さを、私は知っている

 そっと立上がり、窓際に移動すると、その腕時計を外の街灯にかざした

 「やっぱり・・」
 思った通り、丁度私もはめているから、間違いない。私と色違いの腕時計だ

 でも、どうして腕時計なんかを・・?
手首から外して握ったまま寝ちゃったのかな?


 文字盤が薄紫色の腕時計

 なんだろう・・古い記憶が蘇る

 時計を選ぶ時、すでに決めた皇兄が、なかなか選ぶ事が出来ない私に言った


   『晶は、このすみれ色にしろよ』


 黒、赤、空色、薄緑、薄紫の5色から、皇兄は薄紫の時計を指差した

 もともと空色か、薄紫かのどちらかで迷っていた私は、このひと言でそれに決めた
 
 ・・・はず、だったよ・・ね?
 でも、今私がはめているのは、白の文字盤のもの

 
  『なぁ、すみれの花言葉知ってるか?』


 時計のラッピングを待っていると、隣で皇兄が聞いて来た

 当然、私は知らなくて、答えを教えてもらおうとしたら、ラッピングが終わって、結局そのまま・・聞かずじまいで


 「すみれ色・・すみれの花言葉・・?」

 薄紫・・すみれ色の腕時計。もう一度、街灯の光の元に持ち上げる

 
 「返せ!」

 「!!」

 低い声が後ろから響き、振り返ると皇兄が立っていた

 腕時計に夢中になっていて、皇兄が起きた事に気が付かなかった!!

 「こっ・・」

 「返せよ!」

 「痛っ」

 引きちぎられるかと思うくらい強い力で、腕時計を持つ私の腕を皇兄は掴んだ

 「頼む。返してくれ」

 皇兄の目は私を見ていなかった