「あ・・」
 声を漏らしそうになる自分の口を両手で押えた

 画面から目を逸らせない自分がいた

 皇兄のキスシーン

 画面の皇兄は、相手の女性の唇に親指をあてて静かになぞると、彼女の顔を両手で抱え、上唇からそっと口付けている

 「こーちゃん・・幸せそうやなぁ」
 会長さんの言葉通り、皇兄の表情は本当に幸せそうだった

 相手の彼女の事が本当に好きで、愛しむように優しく唇を押し付けている
 
 皇兄のこの表情が、私が画面から目を外す事が出来なかった理由

 「///」
 その後のキスシーンは、ちょっと言葉では言い表せなくて、心臓からどんどん頭の上に血が上ってくるのを感じていた

 「もも、熱でもあるんか?」
 
 「いえ、その・・」
 私の額に会長さんの掌がかざされた

 熱が・・首すじと額に集中しているのを感じる。その部分が熱くてかゆい

 蕁麻疹が出ていた

 「ももには、少し過激すぎる映像やったな」

 私だって、免疫という訳じゃないけど、キスシーンくらいテレビや映画で見たことある

 だけど、自分の知っている身近な、いや知りすぎている皇兄のキスシーンだったから・・

 そっか、皇兄にはちゃんと彼女いるじゃない

 改めて聞かなくてよかった
 『私のせいで彼女をつくらないの?』って
 お母さんが私のせいで皇兄が彼女を作れないと言っていたの、気になってたんだ

 よかった・・んだよね・・?


 カチッ と金属の擦れる音がして、私は現実に戻り音の方向を見た

 「な・・」
 音はライターを擦った音で、皇兄がタバコに火を点け、深く息を吸い込んでいる所だった

 携帯画面とは違う、無表情の顔で皇兄は沢村双葉の顎を持ち上げた

 『キスしてくれるんですか?』
 
 『黙れよ。ベラベラ喋っていると、舌を噛むだろ』
 暗くて、冷たい声
 
 ゾクリ
 私の身体に悪寒が走り、両腕で自分を抱え込んだ

 「今度は寒いんか?」

 「会長さん、あの人誰です・・か?」

姿は皇兄だと分かっているのに、感情が追いつけなくて、質問を投げかけていた

 「誰って、双葉とこーちゃんや、桜庭皇紀。もも、こーちゃんに会うの初めてなんか?まぁ、分からんのも無理ないな。今日のこーちゃん、えろう豹変しとるし」

 そう、桜庭皇紀。私の1つ上の兄
 改めて確かめなくても目の前にいるのは皇兄

 他の人よりお互いの事を知っているはずだった