斜め前の遠藤君。

「大木、俺は君が好きです。俺と付き合ってくれますか?」
「うん、うれしい。わたしも遠藤君が大好きだよ」

 爆発しそうな心臓で見上げると、顔を真っ赤にした遠藤君がいきなり屋上の硬いコンクリートの床に突っ伏した。

「え? なに、どうしたの?」
「……可愛すぎてマジでヤバイ」

 ひぇっ、遠藤君、今なんつった?
 今度はわたしは真っ赤になる番だった。いつの間にか復活した遠藤君が、わたしの顔を覗き込んできた。

 手を引かれぎゅっと抱きしめられる。わたしの頭に遠藤君の顔が乗って、何、これってなんだかすごく恋人同士っぽい!

「大木、いい匂いする。シャンプーか何かかな」
「え? 使ってるの遠藤君のと同じシャンプーだよ?」

 そこまで言ってはっとなった。

「た、たまたま、たまたまだよ。たまたま遠藤君が買ったシャンプーを、たまたまわたしもコンビニで買ったの!」
「へぇ、たまたまね。じゃあパンを買いすぎたのもたまたまってわけ?」
「うん、そう、たまたま! たまたまで絶対にストーカーじゃないからねっ」

 しまった、自分で余計なこと言っちゃった。でもにやにやしてる遠藤君、なんだかやたらとうれしそうなんだけど。 

「で、大木。今度こそちゅうしていい?」
 
 真剣に問いかけられて、わたしの口がもう一度金魚になった。
 返事ができずに、ぎゅっとまぶたを閉じる。
 そのまま遠藤君の顔がゆっくりと近づいて……。

 触れたふたりの吐息を隠すように、昼休みの終わりを知らせるチャイムが、そのとき校舎に鳴り響いた。