どっちにしても、今の橘にはどうでもいいことだろう。 奴の妻は全てを知っているし、何より幸せそうだから。 それに比べて俺は……今となっては後悔先に立たずだ。 「どっちにしろ、世間は狭いんだよな」 俺はぼやく。 「橘の後を追って就職したら、智樹がいるし。 矢田さんもきっと、逃げるようにここに来たんだろうな」 トラウマを負いながらも新たな地で一生懸命に生きている矢田さんを思うと、また胸が痛くなるのだった。