「そうか……?だが、そうだな。オレにとって葉菜は、大切な〝たからもの〟だな。もう一生手放す気はない」
「……一生……?」
埋めていた顔をばっと上げれば、意味深で優艶な微笑をたたえた双眸とかち合った。
「ああ、一生」
目元に甘さを乗せた志貴くんは、そう言って私のおでこにキスを落とす。
「それって、なんか……」
「ああ、そう思ってくれて構わない。いずれ、またちゃんと言わせてもらう。今はまだ時期尚早だろうから、な」
……幸せが、つま先から頭のてっぺんまでじわじわと駆け巡る。
穏やかな昼下がり。
安心する香りと落ち着く体温に包まれて、目元が膨らんでいく感覚を感じながらその幸せをじんわりと噛み締めていた、その時。
ぐぅ〜。
隣から可愛らしい腹の虫の鳴き声が聞こえた。
それに呼応するように、ぐぅ〜と私の腹の虫も鳴く。
二人で顔を見合わせて笑う。
「……なんか、しまらないな」
「ふは……っ!ご飯、温め直すね」
「ああ、オレも手伝う」
「あ、でもその前に、服……」
お風呂上がり、裸でそのままベッドに縺れ込んだ私たちの近くには身に纏える服がない。
もたもたと動き出す私たちを、とても滑稽で、とても愛おしいと思う。
腰にバスタオルを巻いた志貴くんがまずTシャツにハーフパンツを身につけ、それから私の部屋着であるワンピースを脱衣所から取ってきてくれる。
でも。
「……あの、下着もお願いしたいのですが……?」
「いる?多分食欲が満たされたら、オレはまた葉菜を抱きたくなると思うけど」
「……や、私はもう、そちらの方はお腹いっぱいです……」
温かな陽光の差す昼下がり。
きらきらときらめく部屋の中に、私たちの笑い声が混ざり合って溶けた。
── こんなありふれた何気ない日常を、この人と二人でずっと紡いでいけたらいい。
何度でも一緒にこんな朝を、こんな昼下がりを迎えたい。
あなたと二人で── 。
-fin-



