「犬飼、とりあえずこっちはオレに任せて、葉菜先生のことよろしく」
「ありがとうございます。……でもその前に」
「な、なんだよ……⁉︎」
凄みのある笑顔で近づいてくる志貴くんに、光司くんが後ずさろうともがく。でも、もちろんそれは叶わない。
「楽田商事へお勤めの村田 光司さん?あなたが捨てた葉菜をオレが拾ってからもう三か月弱が経った。
知っているか?拾得物の権利期限は約三か月だ。すでにあなたは権利を失効している。したがって、葉菜はもうオレのものだから。諦めるんだな」
「……は?なんでオレのことを……⁉︎っていうか、なに言って……、」
「これ以上葉菜につきまとうことは許さない。あとで、オレとじっくり話をしようか」
「ひっ……」
怒りを秘めた強面美形が本気で凄むと、すごい迫力を生むらしい。
光司くんは拘束されて動けないながらも、怯えた顔を貼り付けて志貴くんから逃げるように上半身だけ仰け反らせた。
「……怒らせちゃいけない人を怒らせちゃったからね……。あなた、村田さん?大変だよ?覚悟してね?」
その様子を見た鶴崎さんが光司くんに哀れみの眼差しを向け、いつの間にかやってきていたパトカーの元へ誘導していく。
すっかり項垂れてしまった彼は大人しくそれに従い、それからパトカーが走り去っていくまで、私は一ミリも動けずにそこにいた。
「── …葉菜」
打って変わって、安堵と心配をない混ぜにしたような表情で私の元へ戻った志貴くんの手が、一瞬逡巡したのち、ふわりと私の頬を撫でた。
それはすぐに離れていったけれど、優しい温度だったそれは、強張っていた私を魔法のように解してくれる。
「本当に、何もされていないか……?」
「うん、腕を掴まれただけ……。志貴くんがすぐ助けにきてくれたから」
それから、ありがとう、の言葉と共に〝大丈夫〟の意味を込めて顔に笑みを乗せたつもり、だった。
でも、うまくいかなかったらしいそれはくしゃりと歪んで、そしたら志貴くんの顔も、呼応するようにくしゃりと歪んだ。



