「……毎回タイミング悪くて空振りばっかりだったけど、ようやく会えた」


毎回……?

にっこりと微笑む彼が、私の知っている彼とは別人のように見えた。

そこで、最近目撃されていた不審者はやはり彼だったのだろうと確信した。


……一体、いつから、どのくらいの頻度でここまで足を運んでいたんだろう。彼も仕事があるのだから、そんなに頻繁に来れるはずはないと思うけれど……。


「── 葉菜。オレたち、やり直そう」

「な、に言ってるの……?」


一歩距離を詰めて唐突に吐き出されたそれに瞬時に肌が粟立って、一歩後ずさる。声が震えた。


「オレたち、いろいろ相性が良かったと思うんだ。葉菜を手放したこと、すごく後悔してる」


別れてから三ヶ月も経った今更……?

たぶん、本命の彼女にフラれでもしたのだろう。だからこちらに戻って来ようとしているのではないか。

そう思って、力の入らない唇をなんとか奮い立たせて聞く。


「……あの、綺麗な彼女は?」

「……別れた」


……やっぱり。

でも私にはもう、光司くんとやり直すという選択肢はない。

あなたにフラれたあの日、私は出会ってしまったから。

お日様の匂いのする布団のような温かさと、こちらが溶けてしまいそうなくらいの甘さを携えた志貴くんに。

二人で紡ぐ何でもない日常が、とても幸せだと思わせてくれる志貴くんに。

私の僅かな揺らぎにも、なぜかすぐに気づいてくれる志貴くんに。


── あの日あなたにフラれてよかったと、心の底から思えるくらい大切な人に、出会ってしまったから。