「……うーん……、わかった。でも、くれぐれも気をつけてね?不審者なんて、どこから現れるか分からないんだから」

「それは風香も一緒でしょ?駅まで気をつけてね?」


苦笑しながらそう言えば、風香は「任せて!」と力こぶを作りながら得意げに言ったあと、「ほんとに気をつけてね?帰ったら連絡してね?」と、最後までこちらを心配そうにチラチラと振り返りながら駅へ向かって行った。



時刻は十九時半過ぎ。

背後にも注意しつつ、春の夜の穏やかな風に吹かれながらもうすっかり馴染んだ志貴くんの家までの道のりを歩く。

注意力が散漫にならないように、余計なことは考えずにただひたすら帰ることだけに集中する。


── そうして一つ目の曲がり角に差し掛かった時。

その向こうに、電柱の影に隠れるように外壁にもたれて立っている人物がちらりと視界に入って、私はぴたりと足を止めた。


……もしかして、不審者……?


頼りない街灯に淡く照らされているその人物は、遠目に見て二十代後半くらいの男性に見えた。色ははっきりとは分からないけれど、ベージュ系のトレンチコートを纏っているように見える。

志貴くんに聞いた特徴と、ほぼ一致している。

元彼か否か。

残念ながらこの距離からでは顔がはっきりとは見えないため、判別はできなかった。


『見かけたらすぐに110番を。もし不審者じゃなかったとしたら、という躊躇いは不要です。絶対に接触はせず、安全な場所に避難することも忘れずに』


私が彼に指導された通りの行動を取るべくスマホを取り出し、曲がり角は曲がらずに来た道を戻るようにゆっくり踵を返した、その時。



「── 葉菜!」



背後から、唐突に名前を呼ばれた。