結局真っ赤に染まった顔を惜しげもなく晒すことになってしまったけれど、
「── やるなぁ、犬飼氏」
そう呟いた風香がとても嬉しそうな表情をしていたから、私も観念して大人しくされるがまま。
ところが。
「……葉菜はさ」
「ん?」
「昔から何かあっても周りに心配かけないように大丈夫って言うのが癖になってるけど、本当は全然大丈夫じゃなかったりするじゃない?」
私の髪を整え終わった風香が、今度は眉を下げて急に真面目なトーンでそんなことを言うから戸惑う。
「えっ?なに、急に……⁉︎」
「いや、犬飼氏は葉菜のそんな部分にいち早く気づけるからこそ、今日だって駐車場で警察官のカオ崩したんじゃないかなって思ったら、葉菜のことわかってくれてるんだなぁって、なんか嬉しくなっちゃって」
『さっきからずっと、葉菜に触れられないのがすごくもどかしい』
『大丈夫だと、抱きしめてやりたいのに』
志貴くんは、いつも私の些細な変化に気がついてくれる。
風香の言うように、さっきも私の不安に揺れる心に気づいて警察官のカオを崩してくれたのだと思う。
だけど改めてそれを嬉しく思うのと同じくらい、風香のその言葉が嬉しくて。
だってそれはつまり、風香も私のことをわかってくれてるってことだから。
「……もう、風香大好き」
その嬉しさの伝え方がなぜか愛の告白みたいになってしまったけれど。
「たぶん、私の方が大好きだけどね」
返ってきたのも愛の告白みたいで、二人で顔を見合わせて笑った。
── それからしっかりと戸締りを終え、帰る方向の違う私たちは門の前で別れる。
「葉菜、ほんとに送って行かなくて平気?」
「うん。送ってもらっちゃったら、それこそその後の風香が心配だし、ちゃんと警戒して帰るから平気だよ」
志貴くんが非番や週休の日は近くまで迎えに来てくれて一緒に帰るのが定番になりつつあるけれど、そうじゃない日は一人で帰る。
不審者=元彼と決まったわけじゃないから、風香だって危ないことに変わりないのだ。



