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「今日のいぬのおまわりさん、大人気だったねぇ」
遅番の勤務を終えた十九時過ぎ。
更衣室で着替え中、風香が苦笑しながら言った。この時間は、すでに私たち以外は誰も残っていない。
「ふふ。うん、もうあっという間に子どもたちに囲まれちゃって」
子どもたちに引っ張りだこだった志貴くんを思い出して笑みがこぼれる。
ちびっこたちと遊ぶ志貴くんというレアな光景を見られたのは役得だったなぁ、なんて、思い返せば返すほどに頬は緩む。
「まっ!葉菜ちゃんが可愛い顔してる〜」
仕事着を脱いで私服のスウェットシャツを腕に通した状態の私の頬を、風香がニヤニヤしながらツンツンと突く。
「ちょ、風香さん?ツンツンされてると着れないんですが……⁉︎」
「あははっ、ごめんごめん」
わたわたとその指から逃れようとしながらそう言えば、何も申し訳なくはなさそうにてへっ、と謝られた。
「ねぇ葉菜?」
「ん?」
「駐車場までの束の間のデート、どうだった?」
「デ、デートって……」
だけどその一言で瞬時に思い出してしまったのは、駐車場に着いた途端完璧な警察官の顔から甘い恋人の顔に切り替わった彼のことで。
これはもはや顔が赤くなる予感しかなくて、私はそれを誤魔化すために慌ててスウェットシャツをズボッと被った。
しかし、そこをみすみす見逃す親友ではない。
形の良い唇がゆっくりと弧を描く。
「……もしかして駐車場で警察官のカオ、崩れた?」
「……も、黙秘権を行使します……」
「ふ、はは……っ!ねぇそれ、肯定してるのと同じだからね?」
けらけらと楽しそうに笑いながら、雑に被ったせいでグシャグシャになった私の髪を風香が手櫛で優しく整えてくれる。



