玄関を出て、園庭横の正門までの道を歩いていると、「あっ!いぬのおまわりさんだー!」と園庭あそびをしていた年長クラスの子どもたちが駆け寄ってくる。
「なにしてるのー?」
「街の安全を守るために、パトロールしているところだ」
「パトロール?かっこいい!」
「アンパ◯マンみたい!」
あっという間に囲まれて引っ張りだことなった志貴くんは、しばらく子どもたちの相手をしてくれたあと、みんなを見回して徐に言った。
「みんな、〝いかのおすし〟は知っているか」
〝いかのおすし〟とは、子どもたちが不審者から身を守るために大切な五つの行動を、憶えやすいフレーズで示した合い言葉。
ここで子どもたちにちゃんとこれを思い出させていくところが、さすが志貴くん。
不審者対策は大人たちが警戒しているだけでは不十分で、子どもたち自身にも常日頃からしっかりとその意識を持っていてもらうことが大切なのだ。
「うん!しってるよ!〝いか〟は、しらないひとについて〝いか〟ない!」
「〝の〟はねぇ、えっと、えっと、……あっ!〝の〟らないだ!しらないひとのくるまにのらない!」
元気な声が、次から次へと上がる。
「〝お〟は、〝お〟おごえをだす!だよね⁉︎」
「ああ。合ってる」
「〝す〟はねぇ、〝す〟ぐにげる!」
「〝し〟はー、うーんと、えーと……」
「〝し〟らせる!だよ!」
「そうだ。何かあったら、大人にちゃんと知らせるんだぞ」
「「「「はーい!」」」」
毎年警察の方を招いて防犯教室をやっていただくので、みんなしっかり覚えてくれているようだ。
「みんなえらいね!よく覚えてたね」
「うん!だってオレたち、もうねんちょうさんだもん」
満面の笑みで褒めれば、得意げに鼻を擦る男の子、ゆうくんが可愛くて、志貴くんと顔を見合わせて笑ってしまった。
それから人の気配のない駐車場に着くと、志貴くんがくるりと身体の向きを変え、さっきとは打って変わって私に心配そうな視線を向ける。
「……この辺りの巡回は強化しているが、十分気をつけて」
「はい」
「何かあったら、すぐ連絡を」
「はい」
「── …葉菜」
さっきまで警察官の顔を崩さなかった彼が、柔らかな声で私の名を紡ぎ、急に甘い恋人の顔になった。



