もう、オレのものだから〜質実剛健な警察官は、彼女を手放さない〜







志貴くんの家にお泊まりするようになってから二週間ほどが過ぎ、ほとんどが緑色に姿を変えた桜の木に次の季節の足音を感じる麗らかな午後。

私の勤めるよつば保育園に、志貴くんがやってきていた。
  

「最近この付近で不審者の目撃情報が続いているのですが、何か変わったことや、気がついたことはありませんでしたか?」


この保育園の付近で不審者が目撃されており、志貴くんたちがこうして注意喚起と目撃情報の確認をしに回っているということはすでに彼から聞いて知っていた。

特徴は二十代半ばから後半の男性、身長175センチ前後で痩せ型。ベージュのトレンチコート着用。

職員室で園長先生と風香を含む居合わせた数人の先生たちと共に志貴くんの話を聞き、私以外の各々が記憶を手繰り寄せたのち、特に変わったことはなかったと答えた。


「春は不審者が増える季節ですからねぇ。葉菜先生は、何か気づいたことはありますか?」


まだ一人考え込んでいた私に、温和な雰囲気を纏う園長先生が問う。

風香はこちらに心配そうな視線を向けていた。


志貴くんが、保育園内にも事情を知ってくれている人がいた方が安心だということで、彼女には元彼から頻繁に連絡があったことも、念の為今志貴くんの家にお世話になっていることも話している。

だからこそ二人は、最近目撃されるようになったその不審者を危惧してくれていた。

元彼かもしれないし、そうじゃないかもしれない。

私もその話を聞いてから、みんなでお散歩に出る時はいつも以上に周囲に気を配っているし、帰宅する際にも警戒を怠らないようにしている。

だけど今のところ、その特徴に合致する人物も元彼も、幸い目撃してはいない。


「いえ、私も今のところ特には……」

「そうですか。では、目撃した際には、……」


それから目撃した際の対応方法などの指導を志貴くんから受け、いつも以上に気を引き締めて保育にあたりましょう、という園長先生の言葉でその場が締められた直後。


「葉菜先生、犬飼さんを駐車場までお見送りしてくれるかしら」


突如、園長先生からのご指名が入る。

私と志貴くんがお付き合いしていることは風香以外知らないので、この場に居合わせている中で、彼女だけがこの状況にニヤけたいのにニヤけられない、何とも複雑な表情を浮かべていた。


「……はい!」


そんな風香を目線で軽くいなしつつ、私は志貴くんと職員室をあとにした。