あれから犬飼さんの献身的な看病のお陰で、その日の夕方過ぎには熱も平熱近くまで下がり、身体もすっかり楽になっていた。

昔から回復力は高い方だから、ここまで来ればきっと大丈夫だろう。

彼の貴重な週休を私なんかの看病で潰してしまって、本当に申し訳なかったな……。

そう思い、犬飼さんには丁重に何度も謝罪とお礼を伝え、あとはもう一人でも大丈夫です、とこれ以上迷惑を掛けないように帰宅の意思を伝えれば、彼の眉が何か言いたげにピクリと動いた。


「……あ!この〝大丈夫〟は、本当に大丈夫の〝大丈夫〟ですから!」


さすがに前科一犯のため、私の〝大丈夫〟は素直に受け取ってもらえないのかもしれない。

その表情だけで察した私は、慌ててそう補足した。


「……でも、また夜には熱が上がるかもしれない。それに……、いや、だからせめてもう一泊……」


それでも〝心配だ〟とありありと書かれた顔で言われてしまったものだから、私はつい吹き出してしまった。

やっぱり犬飼さんも、鶴崎さんに負けず劣らず過保護だと思う。

あんなことがあった昨日の今日で、まさか自分がこんな風に自然に笑えるようになっているなんて思ってもみなかった。

昨日私が〝彼の思い出が残る家には帰りたくない〟と駄々を捏ねた結果が今なのだから、多分犬飼さんは熱のことだけでなく、それも含めてもう帰って大丈夫なのかと心配してくれているんだ。言い掛けて止めたセリフが簡単に想像出来てしまう。

本当に、どこまでも優しい人。


「── 犬飼さん。犬飼さんのお陰で私、昨日よりも大丈夫みたいなんです、本当に、いろいろと」


そうして心配してくれる彼を何とか説き伏せて(子供に言い聞かせるみたいだった)、最終的に夕飯をご馳走になった後何かあったら必ず連絡することを条件に、連絡先を交換した上で渋々家まで送り届けてくれたのだった。