「……本当は、まだ大丈夫じゃない、です……」
暖房の音だけがやけに耳に付くこの部屋で、今にも消え入りそうなその声は、それでも初めて葉菜先生と出会った時のようにスッとオレの耳に入って来た。
その瞬間、どうしようもない愛おしさが込み上げて来て、ぎゅっと抱き締めたくなる衝動を、彼女の頭をぐしゃぐしゃ撫でることで何とか堪える。
昨日からかなり我慢している上に、今こんな状態の彼女の側にいたらさすがにキスの一つくらい落としてしまいそうで。
そんな一抹の危機感を感じたオレは、きゅ、と口角を上げ、意識的に悪戯っぽく見える表情を作って言った。
「……良く言えた。……でも水分補給はさせたいから、一旦、離れてもいいか?」
「……ふふ……。はい、私も喉が渇いたので、それはぜひお願いしたいです」
すると、それに小さく笑みを溢した彼女が少しだけ戯けた口調でそう答えてくれるから、オレの口元は、今度はふ、と自然に綻んだのだった。



