随分久しぶりに感じるその感覚に、自分はもう、とっくに彼女に落ちていたんだということを自覚する。


『ーー……M無線より松並犬飼』


その時突如無線が入り、ハッと我に返った。


「……松並犬飼、アサヒ薬局松並店付近、どうぞ」

『松並交差点で軽自動車と自転車の物損事故発生。現場へ急行出来るか?どうぞ』


ここからなら松並交差点までは五分も掛からない。


「了解。現着まで三分、どうぞ」


そう答えるや否や、駆け足で向かいながらも頭は忙しなく動く。

今さら葉菜先生への気持ちに気付いたところでどうすることも出来ない。

それでも彼女が幸せそうに笑っていてくれるならそれで良い。

そう、無理矢理自分に言い聞かせた。



それなのに── 。



「── ……あ、あの、犬飼さん、もう大丈夫です……。何か、すみませんでした……」


ベッドの中からおずおずと投げかけられたその声に、意識を引き戻された。

まだ少し濡れている瞳が、大丈夫と言いながらも不安げに揺れている。

初めて触れた彼女の手は、想像していたよりもずっと細くて小さくて、あまりにも頼りなかった。

大丈夫な訳がない、と思う。

好きだった男に裏切られフラられた上に、体調まで崩して。

挙句、夢に見て泣いてしまうくらいだ。

やはり、そう簡単に忘れられはしないだろう。