「……あ、の、すいません……。そんなに見られてると、食べづらい、のですが……?」

「……ああ、悪い。じゃあ食べ終わったら呼んでくれ。薬を持ってくる」


私の言葉にバツが悪そうな顔でくしゃりと襟足を乱した犬飼さんは、そう言って立ち上がりキッチンへと戻って行く。

その背中に私は慌てて声を掛けた。


「はい、ありがとうございます……!」


── それから私は無事スープを完食し、犬飼さんが用意してくれた薬を飲んで、額には冷却シートまで貼ってもらってから再びベッドに横にならせてもらった。

……それにしても、一人暮らしの男の人の部屋に体温計や風邪薬や冷却シートって、普通常備されている物なのだろうか。

朦朧としてきた頭で考えてみても、そもそも一人暮らしの男性の家にお邪魔した経験のない私には、分かるはずもない。


「……オレが以前風邪を引いた時に、そういう類のものが一切無かったから鶴崎さんが全部用意して来てくれたんだ。あの人は、ああ見えて過保護だから」


私がよっぽど物問いた気な顔でもしていたのだろうか、犬飼さんが苦く笑いながら教えてくれた。

……さっき、〝移したら大変〟と言った私に彼は、〝身体は鍛えているから大丈夫だ〟なんてしれっと答えていたのに。

しっかり風邪、引くんじゃないですか……。

本当に、どこまでも優しい人。

犬飼さんも十分過保護の素質ありますよ、と、その言葉が音になったかどうか。

お腹も満たされて、薬が早速効いて来たらしい私は、そのまま重たくなる瞼に抗うことなくすーっ、と目を閉じたのだった。