「ごめんなさい……」
申し訳ないやら情けないやら。複雑な感情のこもったごめんなさいを熱い吐息に乗せて押し出せば、犬飼さんはふ、と柔らかく表情を解して私の頭をポン、と優しくひと撫でしてくれた。
「謝ることは何もない。心が弱っている時にあんな寒空の下にずっといたんじゃ熱も出るだろう。昨日葉菜先生を拾っておいて良かった。今日は一日ここでゆっくり療養していけば良い」
「でも、犬飼さんに移したら……」
「平気だ。身体はそれなりに鍛えているからな」
……本当に、この人はどこまでも優しい人だ。
その時、ピピピと測定終了を告げる音が鳴り、体温計を取り出してみればそこには三十八度四分と表示されていて、意外とあるな、と犬飼さんの眉間にゆっくりと皺が寄った。
「薬を飲む前に、スープなら飲めるか?」
そう言うなり犬飼さんはキッチンへ行き、しばらくしてスープが入っているらしいお皿を手に戻ってきた。
コンソメの優しい香りが立ち上るそれは、細かく刻んだキャベツやにんじん、じゃがいも、ベーコンなどが入っていて、とても美味しそうだった。
「犬飼さんが作ったんですか?」
「ああ。一人暮らしも長いからな。簡単な物なら作れる。まぁそう頻繁には作らないが」
ギシギシ軋む身体をゆっくりと起こすと、犬飼さんがあまりにも自然にスプーンでひと匙掬ったスープをそのまま私の口に運ぼうとするから慌てて止める。
「じっ、自分で食べられます……!」
「あ、ああ、悪い。うち、下に弟が二人がいて昔からよく面倒見させられてたんだ。だからその感覚でつい」
バツの悪そうな顔をした犬飼さんがちょっと可愛くて、スープのお皿を受け取りながら少し笑ってしまった。



