神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

こうして。

僕と『八千歳』は、ペンキ塗りの作業を始めた。

今日は本当に忙しいなぁ。

白ウサギを追いかけ、お菓子の家を修繕し。

白ウサギを追いかけ、いちごミルフィーユ村で宝石のゴミ拾いをし。

白ウサギを追いかけ、花壇の花にペンキを塗っている。

不思議なことばかりやってるね。

…こうなってしまったからには、他にどうしようもない。

分かったよ、やるよ。

用事を言いつけられたら、さっさと終わらせて次に臨むのが一番の近道だと、段々分かってきた。

そんな訳で。

僕と『八千歳』は、ペンキとハケを持って、公爵夫人の庭を駆け回った。

ペンキなんて塗るの、これが初めてだな。

芸術のセンスが無いから、どんな風に塗れば良いのか分からないや。
 
いちいち色分けするの面倒だし、全部青色で統一すれば良いか。

…と、思ったのだが。

「ちょっと、『八千代』。それツツジじゃん」

「え?」

「青いツツジは気持ち悪い。別の色にしてよ」

…そうなの?

「…じゃあ、こっちの花に青色を塗るよ」

「それはチューリップでしょ。青いチューリップも気持ち悪い。センスないなー、『八千代』は」

…怒られた。

「…どれに塗れば良いの?」

「そうだな…。元々、青色の花っていうのが結構珍しいから…」

そうなんだ。

確かに、青い花ってなかなか見かけないよね。

白とかピンクとか赤とか、そういう色ばっかり。

「寒色系の色が多い花に塗れば、違和感ないんじゃないかな?」

「寒色…?」

「アジサイとかリンドウとか、アサガオとか」

成程。 

さすが『八千歳』。生粋の園芸部員はやっぱり違うね。

にわか園芸部員の僕じゃ、太刀打ち出来ないや。

「それにしても、ツツジとチューリップとアジサイと…ひまわりまで、同じ時期に咲いてるなんて」

「…?駄目なの?」

「季節がバラバラだよ。違和感凄くて、気持ち悪い」

そうなんだ。

これら、全部バラバラの時期に咲く花なんだ。

それは知らなかった。花って、いつの間にか咲いて、いつの間にか散ってる印象。

さすが園芸部員。

「ひまわりは、元々明るい色の花だから…折角なら、真っ赤に塗ってみたらどうだろう。きれーかも」

そう言いながら、『八千歳』はひまわりを真っ赤に塗った。

おぉ、本当だ。何だか新鮮で、でも違和感はそんなにない。

綺麗だね。

「さすが、『八千歳』は上手だね」

「でしょ?伊達に、ツキナに付き合って花育ててないよ」

本当にね。

こういうところは、僕が真似しても届かない、『八千歳』だけの長所だと思う。

素直に羨ましいや。