これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





俺の手からパシッと奪ったセレナは、ふたつになったわんぱんだを見つめて涙を拭って、意地悪に笑った。



「離れてたら可哀想だもん」


「…確かに」



そのふたつは、かつての俺とセレナだから。

ふたりだけで幸せを感じることができた時間が、そこには残っている。



「もう失くすなよ。大切なものなんだから」


「当たり前だよ。てか、いいかげん帰ってお父さん!ちゃんとお粥食べて薬飲めばいーんでしょ!」


「……学校でそれはやめろよ」


「ふふ。どうしよっかなあ~」



この世界はすべてのものが変化しつづけている。

時間が過ぎてゆくように、留まるものはない。

身体が成長するように、その人の考え方や思想も変わる。



「…あと、一ノ瀬先輩に……謝っておいて」


「それは自分で謝れ」


「えっ…、じゃあなつくんも手伝ってくれる…?お父さんなんだからっ」


「…わかったよ」



でも、ぜったい変わらないものはあって。


その人がもともと持っていた優しい部分。


それだけは時に埋もれてしまうことはあっても、消えることも変わることもないんだと、俺は思うから───。