これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





仕返しなんか、しなかった。
しようともしなかった。

俺がいるからいいって、俺が話してくれるからいいって、そう言って笑っているような子。



「本当に、すごいんですよ…セレナは」



やめて、やめて。

2部屋しかない小さなアパートに、セレナの弱々しい声が響く。



「やめて…っ、お母さんが恥ずかしい思いするから……、言わないで…っ」



そう、ずっと、この子は母親を守っていたんだ。


自分がいじめられていることで恥ずかしい思いをするのは母親だと。

だから言わずにひとりで耐えて耐えて、そうやって生きていた。



「だってセレナ…、学校で人気者なんじゃないの…?」


「それは、セレナが自分を着飾ってまで必死になって作ってきたものです」


「………」



ずっと寂しかったと、泣いていた。
誰も本当の自分を見てくれない、と。

だからせめて、あなただけは味方でいてやって欲しい。



「セレナ……」


「……っ」


「…今日、できるだけ早く帰ってくるわ」



まだ娘とうまくコミュニケーションが取れない母親は、それだけ言って玄関を出て行った。


ベッドにペタリと座り込んだセレナは、額(ひたい)を押さえるようにしながら「最低」と言ってくる。