これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





迷惑……?

この母親はセレナが熱を出したことを知らないのか…?


確かに生活感のない家だった。

キッチンにも目立つ食器は見当たらないし、そのわりにはゴミの量が多い。



「これからまた仕事だから。これ、今月分の生活費」



コップに水を注いで1杯、それから洗面台へ向かって何やら支度を済ませると、今度はテーブルに置かれた2万円。

こちらに一切目も向けないほど忙しいのか知らないが、すぐに靴を履き出す。



「ちょっと待ってください」


「え?」



引き留めたのは俺だった。

さすがに客である俺に引き留められると、その女性も振り返ってくれる。



「なんで…セレナの顔すら見てやってくれないんですか」


「…ああ、それどころじゃなくて。外で待たせている人がいるから」


「だとしても顔くらいは見れるんじゃないですか」



ここでセレナの顔を見ようが、見なかろうが、大した時差はないはずだ。

水を飲んで身だしなみを整える時間はあったんだから、そこで娘の顔を見たって支障はきたさないだろう。