これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





無駄なく完璧に手入れされたセレナの前髪が、サラッと顔にかかる。


その隙間から見える震えた目。

そこには俺が大好きだった女の子も隠れていた。



「な、なつく───」



ガチャ───、

玄関のドアが開くと、セレナは瞳を伏せるように唇もゆっくり閉じた。



「あら…?誰か来てるの?」


「…はじめまして」



初めて見る女性だった。

セレナとは小学生のときから関わりを持っていた俺だけど、運動会にも授業参観にも、セレナの母親は来ていなくて。


だから今、初めて顔を合わせるひと。



「…なあに。彼氏?」


「と、ともだち…だから」


「…そう」



説明したのはセレナだった。

普段からあまり親子の会話はないんだろう。


母親から香ってくる鼻に残る香水や、赤く塗られた唇、ヒールの高い靴は、“母親”というよりは“女”を連想させるものだった。



「学校はちゃんと行ってるの?」


「…今日だけは…具合わるくて、休んだ」


「それならそれでいいけど、迷惑だけはかけないでちょうだいね」


「…うん」