これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





言葉が止まってしまったのは、そのスニーカーが誰のものかということを知っているから。


ドク、ドク、ドク。


緊張と不安。

私は静かにローファーを脱いで、恐る恐るリビングへ向かった。



「おかえり桜乃。お友達が来てるよ」


「……お邪魔、してます」



「しょうご、くん」と、消えそうな声は震える。

ソファーに座る彼と、穏やかな顔をしてお茶を用意しているお母さん。



「話したいことが、あって…」



話したいこと…?

もしかして律儀に別れ話をしにきてくれたのかな。


すでに私たちは実質上、別れているようなものだというのに。


それに勝吾くんはわざわざそんなこと、するような人じゃない。



「ほらほら、とりあえず着替えてきたら?」


「……うん」



震える声で、震える足を動かして、階段を上る。

久しぶりに顔を合わせて、久しぶりに声を聞いた。


付き合う前と付き合った当初はよく家に遊びに来てくれていたから、もちろんお母さんも勝吾くんのことは知っている。


でもお母さんが最初に“お友達”と言ってくれた意図を、私は大切にしたい。