これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





「凝り固まった思考だと、表面からしか物事が見えなくなるんだ。けどそれを……角度を変えて側面から見ることができたとき。
たとえ同じことを繰り返している渦巻きでも、それは着実に上へと進んでいることが分かる」



それが大切だと言って、お父さんは続ける。



「俺も人より確かに遅いスタートで、世間一般と呼ばれるものから見れば少し外れた道を歩いた。
それでも手にしたものは、強く優しい奥さんと、こんなにも一生懸命で可愛い娘がいる……俺にとってどんなものよりも温かい居場所だ」



次に言われるであろう質問を聞く前にはもう、私の答えはハッキリと胸に落ちていた。



「桜乃。そんなお父さんの人生を、恥ずかしいと思うかい?」


「思わないっ、思わない…!」


「だろう?俺の自慢と誇りでしかないんだ。あんなどうしようもないくらいちゃらんぽらんに生きていた俺が、こんな可愛い家族を持つことができたなんて」


「ふふ。本当よね~。あの頃はまさか私があなたと結婚するなんて想像もしてなかった」


「……はは、そこはせめて君だけには否定して欲しかったんだが」



今日はよく眠れる気がする。

明日からの毎日も、アルバイトも、私なりの精いっぱいで。


その“精いっぱい”は、今まで私が思っていたものとは正反対のものだ。


だから三好くん。


君が私にとって優しい人であったように。

どうか君が見た私も、優しい人でありますように───。