「そのひとの人生を、他者が貶す権利なんかない。ペースなんか関係ない、できるできないも問題じゃない。
どの道を歩いて、どこの道にたどり着いたかじゃないの。あなただけの道を、どう歩いたかってことだよ桜乃」
誰かの人生を勝手にジャッジすることは、正しい道ではない。
見られていないからといって誰かを傷つけることは、正しい歩き方ではない。
「“普通”は、誰かが決めたもの。自分にとって都合のいい生き方ができるように決めた、言っちゃえばデタラメなの。
“普通”、“当たり前”、それをひとつひとつ砕いていったとき、誰もが本当の答えなんか実際は分かってない。どうしてか分かる?」
「……わから…ない」
「───無いからだよ。そこに答えなんか」
あの人が言ったから、そうなって。
でもそれはやっぱり違うみたいだから、こっちが本当なんだ、って。
そんなふうにこの世界は曖昧なもので溢れていて。
昨日と今日で言っていることがコロコロ変わってしまうような、そんな確信のない言葉ばかりが飛び交っている世の中で。
「優しい人でありなさい。桜乃」
それだけは裏切ることもなく、本物だと、お母さんは言う。
「やさしい…ひと…?」
「そう。優しさだけは言葉がなくても伝わるものだから。うまく言葉にできなくても、伝えることができる」



