これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





かつて保育士をしていたお母さんは、こういうときは決まって口調がいつも以上に柔らかくなる。

背丈も今ではそこまで変わらないのに、わざわざ膝を落としてまで見上げてくれるのは、どうしても地面を見つめてしまう私と目を合わせるため。



「みんなが…できて、当たり前なことは……、っ、……恥ずかしくない、生き方……っ」



恥ずかしいって言われた。
勝吾くんにも、バイト先の人にも。


みんなと同じペースで生きることができない私は“恥ずかしい”のだろうか。


自分で言葉に出すと、いろんなひとに背後から指をさされているような気持ちになる。

それが今度は身体に影響が伝わって、鼻の奥がツンと刺激されて、ずっと我慢していたものが目から涙となって溢れて。


座りこむように力が抜けてしまったちょうどなタイミング、優しく抱きとめてくれるお母さん。



「恥ずかしいって、なあに?誰に対して恥ずかしいの。どうして恥ずかしいって感じるの」


「わかんない、わかんないっ」


「桜乃。それは自分じゃなく、“誰かのなかで”恥ずかしいんじゃないのかな」



私が空回ると、そんな女と付き合っていた勝吾くんが恥ずかしい思いをする。

私がミスをするとオーダー提供に遅れて、ホールスタッフたちから文句を言われて、一緒に調理しているバイト仲間が恥ずかしい思いをする。