これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





頼まれた段ボールを職員室に運ぶと、担任の先生は「最近の一ノ瀬は俺も心配なんだよな…」とつぶやいてから笑った。



「だが、素直な生徒がいてくれて先生は嬉しいぞ。じゃあまた明日な」


「はい。さようなら」



そう、これもまた無意識がやらかした今で。

ただこれは気づけば人の役に立ててしまったパターンだったため、悪い気はしなかった。


失礼しました、と頭を下げて職員室を出ようとしたとき。



「せんせえ~、もーまた呼び出しー?あたし暇じゃないのに~!」



そう言いながらちょうど入れ違いで現れたのは、私に緊張を与えてくる1年生の女の子だった。



「おう高田。呼び出されたくなかったら、ちゃんと提出するプリントは出すこったな」


「はぁーい」



逃げよう───、

今ならまだ気づかれてもいない。


私が顔を向けられないというのが大きいけれど、幸いなことにお互いが同じ方向を向いていたから向き合うことはなかった。


このまま背中からすり抜けよう。

うまくうまく、静かに後ずさって、くるっと体勢を変えてからの小走りだ。