これが恋だなんて、知らなかったんだよ。





それからしばらくすると駆けつけてくる、上の人らしき人間。

ぼうっと突っ立ったままの彼女の背中をバシッと叩いて、そこでも優しくない言葉が投げられる。



『一ノ瀬さんはもう接客しなくていいから!今日からキッチンに回って!ほんといつになったら覚えてくれるのかなあ!』


『…すみ、ません…』



そして追い払われるように厨房へと消えていった。

こういう出来事というのはきっと、いろんなところで起こっているんだろうけれど。


客の態度といい、上司の態度といい、感情任せにものを言うことしかできない人間にだけはなりたくないと思った。


そのあと、ファミレスを出たとき。

駐車場の裏でひとりの店員が静かに泣いていたことは、たぶん、俺だけが知っている。



「───…ありがとう」



それから月日が経った今日、その子から差し出されたわんぱんだを、俺は素直に受け取った。

ふわりと花が咲くように笑う顔だけは、ぜったい大切にしなくちゃいけないと。


…って、ニセモノの彼氏の分際で俺はなに考えてんだろ。