第5章 宇宙人に捕らわれた話



日曜日の朝、病院へ向かおうと家を出た時に青い光に包まれた。

男は、ミサイルでも飛んできたのかと思ったが爆発音や衝撃は感じられなかった。だが、一つだけ違ったことがあった。体が宙に浮いていくのであった。青い光の中をまるでエレベーターのごとく上へと上がっていく。

見下ろすと、自分の家がミニチュアのように見えた。



上がっていく先を見上げると四角い物が浮いていて、どうやらそこに吸い込まれて行っているらしい。咄嗟に、これは宇宙船だなと理解した。

扉が音もなく開き、男は中に取り込まれた。

何かガヤガヤと音が聞こえる。それが何処からなのかは分からないが、とにかく多数の何かが居るのには間違いないと思った。

人体実験をされるのか。男の頭に恐怖が過った。

ガヤガヤはまだ聞こえる。男は足下を見た。すると、身体中から足というか手というか、それとも触手というか、兎に角そんなものが多数に生えた生物が何かを話し合っているらしい。

男は、その中の一匹を右手で掴むと、自分の顔の前まで持ち上げた。

「醜いよなあ····凄く」

男は生物の姿をまざまざと見ながら呟いた。

足下の生物は大騒ぎしている。恐らくだが、自分達よりも小さな生き物を捕獲したつもりだったのではないかと思う。それが予想外に大きくて右往左往しているのが今の状況らしい。

男は、その一匹を掴んだまま船内を歩き回った。何故か天井は高く、男が歩くのには不自由しなかった。

足下の奴らはずっと付いてきている。そうこうしているうちにオペ室のような部屋に行き着いた。

男は室内を見渡しながら考えた。幾らなんでもこんな醜い姿では可哀想だ。

男は外科医であった。

ベッド横のワゴンの上に手術道具みたいな物を見つけ、

「何だ、一通り揃っていそうだな」

と一人納得した。

男は、いくつかある液体を嗅いでみた。そしてその中から一つを選ぶと、ベッドの上に置いた一匹の生物に嗅がせてみた。生物の動きが完全に止まった。

男は生物の触手を片っ端から切り離していった。そして、この位は残しておくかと数本だけは切り落とすことを止めた。



男の行動を見て足下の奴らは慌てて男を宇宙船から解放した。男の手にはオペを施した一匹の生物が握られていた。生物は怒っているのか身体中が真っ赤になっていた。男は地上に降りると近くの海に放流した。

これがタコの歴史の始まりである。