「アンちゃん、久しぶりだね。

ストーカーに斬られそうになったのを、彼氏に助けられたんだって?」


私にそう言ったのは、澤弥が運ばれた病院の院長。


10年前の因縁があって、私は院長室でお茶をいただいている。


「彼氏じゃないです、友達!」


「なんだ、まだカズのこと引きずってるの?

そんなんじゃ、草葉の陰で悲しんでるよ。」


確かに、自分が死んだら、さっさと彼氏作れって言われたけど…。


「そういうもの…でしょうか?」


「カズの願いは『アンちゃんの幸せ』だから、いいんじゃないの。」


「でも…。」


「踏ん切りつかないのは分かるけど、あれから10年近く経ってるんだから…。

前に進まないとね。」


前に進む…か。


昔、梨香にそう言ったことあったな。


だけど、10年前から足踏みしてる私が言うセリフじゃなかったな。


そう思いながら、自分の愚かさを嘲笑った。