『アン、何かあった?』


いつも通りすぐに出てくれたけど、澤弥はヒソヒソ声で私に話す。


「今、まずかった?」


少し、沈黙が流れる。


『…いや、良いよ。

ドコにいる?』


私が居所を喋ろうとしたとき、電話の向こうから女の声がした。


『アナタ、この前も花見先輩に電話してきた人よね!?

先輩が行きたがってたアメリカ出張、アナタのせいでパァになったのよ!

仕事中に呼び出すなんて非常識よ、クビ切られたらどうしてくれるの!

どうせ好きでもないくせに、先輩の気持ちを利用しないで!』


その声と一緒に


『余計なこと喋るな、携帯返せ!』


っていう、澤弥の声が聞こえた。


澤弥は仕事に影響ないって言ってたけど、ホントは…そんなワケないんだ。



外から、ドアを叩く音が響く。


「きゃっ…!」


私は、悲鳴と共に身を竦める。



『アン、場所は?』


ケータイを取り返したのか、澤弥の声がした。



怖いよ、助けて!



そう言いたかったけど、これ以上澤弥を振り回しちゃダメだと…再認識した。


「今まで、ゴメン。

私、ちゃんと自分で何とかするから。」


私はそこでケータイを切った。