あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 気まずい。
 恥ずかしい。
 黙っていると、心臓の音を聞かれそうで聞きたかったことを口にする。

「あらかじめ荷物をこの家に運ばなくても、病院からうちに来てもらえばよかったんじゃない?」 

「…………ドアを閉められてしまう気がして、出来なかった」

 慎吾の声は聞き取りづらかった。

「え?」

「送り届けてしまえば、里穂達の人生から締め出されてしまうような気がしたんだ」

 不意に、この人も自分と会えない日々苦しかったのだと知る。

 諦めてしまった里穂と違って、彼は探してくれた。
 恨んだり拗ねていたばかりの自分と違って、みつからないことにどれだけの苦悩を感じていたのだろう。

 ごめんなさい、と口の中で呟いた声を慎吾はわかってくれたようで、くしゃと髪をなぜてくれた。

「おやすみ、良い夢を」

 眠れるわけがない。それでも寝たふりをするべきだ。

「おやすみなさい」

 ドキドキしていたのに、いつの間にか意識が眠りに落ちようとしているのを感じる。

 足を伸ばして寝れるなんていつぶりだろう。
 ふんわりと軽くて暖かい掛布に、乾いて肌触りの良いシーツ。
 自分に伸ばされた、がっしりした腕に包まれて幸せだ。

「むにゃ……こんなに気持ちよく眠れそうなのは、あの日以来……」

 恋しいと想った男性に初めてつつまれて眠った、あのハロウィンの日。

「里穂……、眠ったのか? ゆっくりおやすみ。俺は嬉しくて眠れそうにないけど。慎里、お前は父親孝行だな。最高の息子だよ」

 慎吾の声が聞こえたが、夢だったのかもしれない。