あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 里穂は起き上がった。
 慎吾が慎里を抱いたまま向かいの部屋のドアを開ける。

 八畳ほどの空間にキングサイズのベッドが置いてあり、慎吾はこの部屋で起居しているらしい。
 彼のトワレの名残りを嗅いでしまい、心臓がどうしようもなくバクバクとしてくる。
 慌てて周囲を見回せば、クローゼットに掛けられた衣服があって、生活感にかえって緊張してきた。

 ベッドは当然ながらというか、一つしかない。探しても、他には寝具はない。

 向かいの部屋が慎吾と里穂の子供のための部屋ならば、この部屋は自分と彼が暮らす部屋なのだと悟る。
 彼と自分が共に寝るためのベッド。

 固まってしまった里穂を戸口に置いたまま、慎吾はスタスタと歩みより掛布をめくった。
 低い声で里穂を招く。

「おいで」

 淫らな音色(おんしょく)ではないのに、勝手に艶を拾ってしまい体が反応してしまった。
 踏み出す一歩ごとに心臓が口から飛び出しそうになる。

 なのに慎里ときたら、慎吾の胸でまどろみ始めている。父子二人にした方が寝つくのではないだろうか。
 小さなやきもちが胸のなかで出来上がる。自分は遠慮する、と口に出す前に。

「里穂。いやかもしれないが、慎里のために我慢してくれ」

 先手をうたれてしまった。

「…………うん」

 声がみっともないほどに震えてしまう。
 慎里を慎吾のそばに寝かしたけれど、往生際悪く部屋を出てしまおうかと思った瞬間、逃さないとばかりに手首を掴まれていた。

「里穂も慎里の傍にいてやってくれないか」
「わかってる」

 二人に挟まれて安心したのか、慎里は寝息を立て始めた。
 できるだけベッドの端にいようとする里穂を、慎吾の腕が引き寄せてくる。

「なにッ?」

 怯えた声を出した里穂に一言。

「あんまりはじっこにいると寝ぼけて落ちるぞ」

 真ん中にいる慎里を潰さない程度に抱き寄せられてしまった。