あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

「ん……」

 慎吾のまつ毛が震えるのを、里穂は息を潜めて見つめていた。

 瞼が上がり、彼の美しい双眸がとろりとしつつも何かを探すように泳ぐ。
 やがて、里穂を見つけると慎吾はふわりと微笑んだ。

「里穂、上がったか」
「う、うん」

 なぜかドギマギしてしまって挙動不審になる。

 が、慎吾はとくに疑問にも思わなかったらしい。
 しなやかな獣のように慎吾が立ち上がると、彼の腕の中に息子が抱かれていた。

「寝るか」

 今日からしばらく家庭内別居だ。

 里穂はまだ慎吾と一緒に寝る勇気はないし、慎里を一人で寝かしつけたこともない。
 慎吾が注文してくれた客用布団を慎里の部屋に敷いて、別室で起居する。……はずが。

「あらら、着地失敗」

 慎吾は息子を宝物のように布団に下ろしたのだが、それまで密着していた体温がないことに気づいてしまったのだろう、グジュグジュと泣き出した。

 慌てて里穂が布団に入って添い寝をする。

 慎吾が屈んで、里穂と慎里二人の頭を撫でた。
 途端、慎里も静かになるし里穂も安らいでしまった。

「おやすみ、里穂。おやすみ、慎里」
「おやすみなさい」

 そっと母子にささやいて、慎吾が立ちあがろうとする。と、慎里がうわぁぁんと泣き出した。まるで、父親に行って欲しくないと訴えているようだ。

 ぽんぽんと背中を叩いてあやしてやってもダメ。
 仕方なし、慎吾が抱き上げてやるとひっくひっくと、泣き止む。
 とろとろ……と寝入りかけたのでそうっと里穂の傍に下ろすと目をぱっちり覚まして泣き出す。

 そのパターンを三回ほど繰り返し、慎吾は決断した。

「里穂。嫌だろうが、慎里が慣れるまで一緒に寝よう」
「……うん」

 嫌なわけがない。
 ただ、心の準備ができていないだけだ。