あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 待ってくれるのではなかったのか。
 先ほどの言葉は『部屋に落ち着くまで』という意味だったのか。

 里穂は思わず、恨めしげに慎吾をにらんだ。
 しかし男は平然と受け止めるどころか、厳しい視線を投げかけてくる。

 彼女は震えながら口を開ける。

 と。
 慎里が目を覚ました。

 うぶぅ……と唸りながら眩しそうに眉を寄せる。
 二人で見守っていると、息を思い切り吸い込んだあと大きな声で泣き出した。

「わ、なんだ」

 途端、慎吾がオロオロしだす。

「この泣き声だとご飯かな」

 一方、里穂は落ち着いている。

「あ、ああ。そうか」

 里穂は慎吾に彼が持ってくれていたバッグを返してもらった。代わりに息子を抱いてもらう。

 体温が違うからなのか、里穂よりしっかりした腕が気に入ったのか、慎里が少しおとなしくなる。

 バッグの中から粉ミルクの入った哺乳瓶とベビーフードを取り出す。

「お湯を貰いたいんだけど、いい?」
「台所はこっち」

 里穂が訊ねると、慎吾が子供を抱いてくれたまま歩きだす。

 慎里はお腹が空いて辛いのか、ぐじゅぐじゅとぐずっている。

 里穂はバッグを抱えて息子をあやしながらついていく。