あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

 自信たっぷりの声。
 人生に難しいことはないと考えているような口ぶり。

 彼こそ色々な責務を負っているだろうに、大変さを微塵も感じさせない。

 ネガティブな思考に陥りがちな里穂は慎吾を眩しく思った。

 上昇を続けていたエレベーターが止まり、出るよう促される。

「ここ」

 分厚い絨毯が敷かれた廊下をしばらく歩いたのち、一枚の立派なドアの前で慎吾は足を止めた。

「悪い、引っ越したばかりで何もないんだ」

 玄関を入ると、大人の背丈より大きいシューズクローゼットがある。

 慎吾は履いた靴をしまうべくクローゼットの扉をあけた。

 男物の靴ばかりが数足しか入っていない。
 傘立てにも同じく男物の傘が二本ある他は、がらんとしている。

 彼の言う通り、一人暮らしのようで里穂はほっと息をつく。

「今までエスタークのホテルやらなんやら、護孝と一緒に泊まり歩いててね」

 慎吾が廊下を進み、一番奥まった部屋に入った。

 よほど重厚な遮光カーテンをつけているらしく、部屋の中は薄暗い。

 里穂が戸口で佇んでいると、慎吾が窓際に近づいてカーテンを開けた。

 途端、明るい陽光に照らされたリビングと思しき場所はテーブルと椅子の他は何もなく、とても広い。

 慎吾が椅子をひき、着席するよう示唆する。

「さて。俺達の長い話を続けようか。君は何を怖がっている?」