『慎里くん、お熱出ました』

 メッセージが入っていて、里穂は来たかと天井を仰いだ。

 よりによって彼女は夜勤中である。 

 夜中に綺麗にして欲しいという客は少ないが、皆無ではない。
 防犯とスピードアップの為、夜間の室内清掃は二人一組だ。

 ……が、経費削減の為、広い館内をスタッフ二人でカバーしていた。
 おまけに今日はパートナーが腰を痛めて早退している。

 つまり、宿泊客からのコールにメインで対応出来るのは彼女一人なのだ。

 ……といっても、里穂しか清掃スタッフがいないときに保育園からの呼び出しが今までなかった訳ではない。

「クロークは誰だったかな」

 里穂は他の夜勤スタッフの顔を思い浮かべた。

 スタッフの中にはシングルマザーである里穂に同情的な人間もいて、保育園からの呼び出しに融通をきかせてくれる場合もある。
 が。

「……ダメだ」

 今回の夜勤リーダーは里穂をというか、シングルマザーを小馬鹿にしている男だった。
 彼では途中抜けさせてもらうなど、できない。

「お迎えにいけない」

 特別保育を頼むしかない。