「何度電話したと思う!」
「……かかってきたことない……」

 里穂だって、何十回いや何百回携帯の画面を見つめたことだろう。
 全く知らない着信があればかけてみたのだ。でも、どれも慎吾と繋がることはなかった。

「君の携帯番号の一と七。あと、〇と六と九! いく通りあると思う?」

 慎吾は言った。

「あ」

 里穂はひどい癖字だ。

 漢数字はともかくローマ数字だと、一と七がどちらかわからず、〇と六と九にいたっては丸なのか、〇についた尻尾なのかすらわからない。

 都度、注意されるので丁寧に書くようにしているのだが、焦ったり寝ぼけたりしていると無自覚に出てしまうらしい。

 しかも里穂の電話番号はその問題の数字だらけなのだ。

 さらに慎吾は別の紙をみせてくる。
 電話番号がずらりと、何百通りもありそうだ。
 ところどころ線が引かれて消されている番号だけでも数十ではきかなさそうである。

「千通り以上ある」

「そんなに……!」

「ダチに協力してもらって、この組み合わせの番号をもつ客をあのホテルの部屋を毎日招待してきた」

 友達とはもしや隠岐CEOか。里穂は青くなる。
 
「毎日、祈るような思いだった。でも、君はいない!」

 慎吾の顔が辛そうに歪んだ。

 ……本当にこの人は自分を探してくれたのだ。
 さっきまでの苦い涙が甘いものになる。
 彼女の表情が柔らかくなったのをみて慎吾も微笑み、真剣な表情になる。

「もう離れたくない。里穂、俺のそばにいてくれないか」

 YESと言いそうになり、とどまる。

「里穂?」

 自分は、この男が名家の出身だと知ってしまった。引き換え自分は父も母もおらず、頼る親戚すらいない。
 それどころか。

「私……だめ」
「里穂? 何がだめなんだ」

「私、子供が」

 息子のことをつい、口ばしってしまった。