……慎里は母があまり休みたくないのを理解してしまったかもしれない。

 休んで二日目、おしるしを迎える。 
 里穂は不安そうにカレンダーを見上げた。
 三十八週目に入っている。

『もう、いつ生まれても無事に育つよ』と医師には言われていた。
 けれど、妊娠出産が現代でも一大事であることに変わりない。
 特に、里穂は一人。
 自分になにかあった時、我が子を守ってくれる人は誰もいない。

 出産後はどうしても休む。
 身二つになるまでに少しでも多く働いておこうと思ったせいで、お腹の子に無理をさせてしまっただろうか。

「大丈夫だよね……」

 心細くて仕方ない。こんなとき、慎吾がいてくれたらと切実に思った。

「だめだ、こんなに弱くちゃ」

 あとは赤ん坊の生命力に頼るのみ。

 助産師も産婦人科の医師もいてくれるし、もうじき我が子と対面できる。
 自分は母親になれるのだ。

 やがて五分おきにくる痛みから、予約していた陣痛タクシーに乗り、産院に到着。
 家族に囲まれている妊婦の隣で一人で生みの苦しみに立ち会いながら、我が子を抱いて喜んでくれる慎吾を想像していた。

 おぎゃああ……。
 息子の元気な泣き声に、里穂も一緒に涙をこぼした。