ある日。里穂は裸になり、鏡の前に立った。
 手に携帯電話を持って、自分の腹部に話しかける。

「出産後からだけではなく、お腹の中にいるときからあなたのことを記録しておこうかなって」

 日々の体調、セルフポートフォリオや超音波写真を非公開のブログに投稿していく。

 ……育っていく赤ん坊の記録をいつか見せたい男性の顔か浮かんだ。


 つわりがはじまった。
 彼女はどうやら眠りづわりらしく、しばしば猛烈な眠気に悩まされる。

 客室清掃係というのはそんな時に都合がいい。
 褒められたことではないけれど、作業することを見逃してもらって、なんとか凌ぐ。

 十五週目でつわりが治まって腹の子が男児とわかり、里穂は慎吾からも一字もらおうと考えた。

「慎里、あなたはお父さんとお母さんの名前から取りました」

 赤ん坊は、腹の中で気に入ったとばかりに、ぷくぷくと動いてみせた。